コラム
公開日:2023/06/16
更新日:2023/10/25

相続時精算課税制度のメリット・デメリット・改正内容をわかりやすく解説

財産の贈与が行われた時、一般的には「暦年課税」という計算方法で贈与税の計算が行われます。

しかし、一定の要件を満たし、選択届出書を税務署に提出することで暦年課税に代わって「相続時精算課税制度」を利用することが可能です。

従来の相続時精算課税制度は利用しやすいとは言い難い制度でしたが、令和5年度税制改正より利用しやすく、そして節税効果が高い制度になると予測されています。

ここでは、相続時精算課税の概要とメリット・デメリット・改正内容をわかりやすく解説します。

1.相続時精算課税制度とは|わかりやすく解説

相続時精算課税制度とは、わかりやすく言うと「生前贈与した財産を相続が発生した時に精算して計算する制度」です。

相続時精算課税制度を選択した場合、2,500万円まで贈与税が非課税になりますが、贈与した人が亡くなった時に亡くなった人の相続財産に加算して相続税の申告を行います。

要するに、相続時精算課税制度を選択することで生前贈与に対する課税を相続時までに繰延べることができます。

1-1.相続時精算課税制度を選択することができる条件・年齢

相続時精算課税制度を選択するためには、一定の条件があります。

原則として「60歳以上の両親や祖父母などから18歳以上の子や孫」に対して行う生前贈与については、相続時精算課税制度を選択することが可能です。

贈与する財産の種類や贈与する金額、贈与回数に制限はありません。

相続時精算課税制度を選択する要件

  • 贈与をする人(贈与者):贈与を行った年の1月1日現在で60歳以上である人
  • 贈与を受ける人(受贈者):贈与をする人の直系卑属の推定相続人(※)または孫で、贈与を受けた年の1月1日現在で18歳以上の人

※上記の「直系卑属の推定相続人」とは、贈与する人の下の世代であり、直接的な血縁関係がある人(子や孫など)のことです。また、現在、相続が発生した時に相続人になる人のことを推定相続人と言います。

1-2.相続時精算課税制度のメリット|非課税になる金額

相続時精算課税制度を選択すると「2,500万円までの贈与税」が非課税になります。

2,500万円を超えた贈与を行うこともできますが、2,500万円を超えた部分については一律20%の贈与税が課税されます。

1-3.複数人も父母それぞれも可能!贈与者別に選択することが可能

相続時精算課税制度の選択は受贈者が行いますが、受贈者は贈与者別に暦年課税にするのか、それとも相続時精算課税制度を選択するのかを決めることが可能です。

例えば、受贈者が孫で祖父からの贈与については相続時精算課税制度を選択し、祖母からの贈与については暦年課税を利用することもできます。

相続時精算課税制度には人数制限がないため、複数人に対して可能です。

たとえば、祖父の贈与と祖母の贈与それぞれ、どちらについても相続時精算課税制度を選択することも可能です。

この場合、各贈与者につき2,500万円の非課税が利用できるので、最大5,000万円の生前贈与が非課税になります。ただし、非課税になった相続財産は相続時に加算されますので慎重な検討が必要です。

1-4.一度選択すると後戻りできないデメリットも

相続時精算課税制度は課税の繰延を行うことができる便利な制度ですが、一度選択すると暦年課税に戻ることが一生できない制度です。

そのため、選択するかどうかを慎重に検討しなければならない点はデメリットと言えます。

2.相続時精算課税制度が大幅に改正

令和5年度税制改正では、生前贈与についての課税方式が大きく変更され、相続時精算課税制度の利便性が大きく向上し、暦年課税の利便性が低下する内容になっています。以下わかりやすく解説します。

2-1.相続時精算課税制度に110万円の基礎控除が認められる

暦年課税には、年間110万円までの生前贈与については贈与税が課税されない「基礎控除」が認められています。一方、従来の相続時精算課税制度には基礎控除がなく、少額の贈与であっても非課税枠に累積するか、既に非課税枠の2,500万円を超えているのであれば20%の相続税の負担が必要です。

そのため、相続時精算課税制度を選択するよりも暦年課税の基礎控除を利用しながら長年かけて贈与を行った方が節税効果が高くなるため、これまでそれを相続時精算課税制度のデメリットと感じてしまい、選択する人は多くありませんでした。

しかし、令和5年度税制改正により相続時精算課税制度にも「110万円の基礎控除」が令和6年(2024年)の1月1日の贈与より認められます。相続時精算課税制度の基礎控除が認められることにより、申告の手間の削減と節税の両面から大きなメリットを得ることができるようになります。

2-2.メリット①贈与税がかからない

相続時精算課税制度を選択している場合は2,500万円までの非課税枠がありますが、今回創設される年間110万円の基礎控除は非課税枠とは別に設定されます。つまり、年間110万円以下の生前贈与であれば贈与税の納付が必要なく、かつ、非課税枠に累積する必要もありません。

2-3.メリット②贈与税の申告が必要ない

従来の相続時精算課税制度では、少額の贈与であっても贈与税の申告が必要でしたが、基礎控除の創設により、年間110万円以下の贈与であれば贈与税の申告は必要ありません。

2-4.メリット③相続税の節税になる

相続時精算課税制度を選択している場合、相続時に2,500万円の非課税枠を利用した財産は相続財産に加算して相続税の計算を行わなければなりません。しかし、今回創設された基礎控除では、110万円以下の贈与を行っている場合については相続時に加算する必要はありません。

2-5.暦年課税の加算期間が延長

暦年課税を選択している場合、相続開始前の一定期間に贈与された財産については「贈与がなかった」とみなし、相続財産に加えて相続税の計算を行う「生前贈与加算」という仕組みがあります。

令和5年度税制改正では、従来の相続開始前3年から「7年間」に段階的に延長されます。

相続財産に加算期間が延長されることになりますので相続税の増税に繋がる改正です。ただし、令和6年(2024年)から4年間については100万円の控除額が設けられており、納税者への配慮がなされています。

 

【相続税法改正2023】生前贈与加算が3年から7年に延長!

 

3.暦年課税と相続時精算課税制度どちらを選べばいい?

暦年課税と相続時精算課税制度を選択した場合どちらが節税という観点でメリット・デメリットがあるのかについては、贈与する額や相続財産が基礎控除を上回っているかなどが関係してくるため、一概にどちらが有利になるのかを判断することができません。

相続時精算課税制度が改正後も、有利になるケースは従来どおり「値上がりしそうな財産がある人」「収益を生む財産がある人」などが該当します。

生前贈与により早めに財産を移転することで相続財産の増加を抑えることができるからです。

また、相続財産と贈与した財産の合計が基礎控除の範囲内の人である場合は、将来的に相続税がかからないため相続時精算課税制度を選択した方が有利になります。

上記に加え、今回の基礎控除の創設により年間110万円以下の贈与を行う場合には相続時精算課税制度を利用した方が有利になる場合があります。

なぜなら、暦年課税は7年の生前贈与加算が行われるのに対し、相続時精算課税制度には生前贈与加算する必要がないためです。

全てのケースで相続時精算課税制度を選択した生前贈与が有利になるわけではなく、贈与する金額や贈与する期間によって異なり、相続財産が比較的少なく、贈与する金額も少なく、贈与する期間が短い場合については相続時精算課税制度を選択した方が有利になる傾向にあり、相続財産が多く、贈与する金額も高額で贈与する期間が長い場合は暦年課税が有利になる傾向になっています。

個別の財産状況や贈与期間によって異なりますので、生前贈与による節税対策を行う場合には税理士に相談し、シミュレーションを行ってもらうといいでしょう。

4.まとめ

今回は、相続時精算課税制度のメリット・デメリット・改正内容などについてわかりやすく解説しました。

相続時精算課税制度については専門的な知識が必要になる場合もありますので、検討する際はぜひ税理士にご相談ください。

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