コラム
公開日:2023/03/01
更新日:2023/03/01
【相続税法改正2023】生前贈与加算が3年から7年に延長!
令和に入り、相続税と贈与税の見直しが行われ、将来的には相続税と贈与税を一体化する流れになってきています。
相続税と贈与税の一体化については、これまで具体的な税法改正などはありませんでしたが、2022年12月に公表された令和5年度(2023年度)税制改正大綱では、相続税と贈与税の一体化の一環として「生前贈与加算が3年から7年に延長される」ことになりました。
ここでは、生前贈与加算が7年に延長されることによる影響と、いつからなのか、またこれからの改正スケジュールについて紹介します。
目次
1.2023年度税制改正大綱で生前贈与加算が7年に
「生前贈与加算」とは、亡くなった被相続人から生前に贈与を受けていた場合、相続税の計算ではその贈与はなかったものとして相続財産に加算して、相続税の計算を行う制度です。
現行では、生前贈与が行われて3年以内に贈与者が亡くなった場合に限り、生前贈与加算が行われていました。
ただ、2023年度税制改正により、生前贈与が行われて7年以内に贈与者が亡くなった場合に、生前贈与加算が行われるようになります。
今回の生前贈与加算の年数延長の改正は、相続財産が増加することになりますので納税者にとっては「相続税の増税」になると言えます。
2.いつから?生前贈与加算の年数延長スケジュールと緩和措置
生前贈与加算の年数延長の改正は2023年度税制改正で行われますが、実際には「2024年1月1日以後の生前贈与」から対象になります。
もちろん、それ以前の贈与については、現行どおり3年以内の生前贈与加算になります。
2-1.スケジュールと加算年数
この改正により、以下のように、生前贈与加算の年数は2031年まで段階的に延長され、最終的に7年になります。
- 2027年相続開始⇒最長4年 例:2027年10月20日に相続が発生した場合⇒3年+293日
- 2028年相続開始⇒最長5年 例:2028年6月15日に相続が発生した場合⇒4年+167日
- 2029年相続開始⇒最長6年 例:2029年3月5日に相続が発生した場合⇒5年+64日
- 2030年相続開始⇒最長7年 例:2030年12月25日に相続が発生した場合⇒6年+349日
- 2031年以降に相続開始⇒一律7年
なお、相続開始日が2027年以降から2030年末までについては生前贈与加算の年数が変動しますので注意が必要です。
2-2.100万円控除の緩和措置
また、相続開始4年前から7年前までの間に贈与があり、生前贈与加算が行われた場合には、その生前加算された財産価額の合計額から「100万円を控除」することができます。
この控除は4年前から7年前までの4年間で100万円です。
毎年生前贈与があった場合でも100万円ですので注意が必要です。
3.生前贈与加算3年から7年に延長される理由
生前贈与加算3年から7年に延長される理由は、相続税と贈与税の一体化の一環として行われるものです。では、なぜ相続税と贈与税の一体化が進められているのでしょうか。令和4年度の税制改正では次のように説明されています。
- 高齢者が持っている財産を若年層に移転させることで経済の活性化を進めたい
- しかし、相続税や贈与税は富の再分配として必要なので廃止することはできない
- 現行の制度ではこまめに生前贈与を行うことで節税することができ、生前贈与を行っている人と行っていない人の差が大きい
- 他国の税制では、贈与で財産を移転しても相続で財産を移転しても同じ税負担になる仕組みになっている
上記のような理由から相続税と贈与税の一体化が進められています。
3-1.諸外国と足並みを合わせるための改正
2018年に内閣府で行われた税制調査会の資料では、諸外国の生前贈与加算について説明されています。今回の改正は、諸外国との足並みを合わせるために行われた可能性があります。
- アメリカ⇒生涯に亙る累積贈与額と遺産額に対して、遺産税を一体的に課税
- ドイツ⇒10年間の累積贈与額と相続財産の額に対して、相続税を一体的に課税
- フランス⇒15年間の累積贈与額と相続財産の額に対して、相続税を一体的に課税
4.生前贈与加算7年延長が与える影響
生前贈与加算7年延長は、相続税の納税者にとって増税になる改正です。なぜならば、今まで加算しなくてよかった生前贈与が相続財産に加わり、その結果、相続税の負担が増加します。
4-1.相続税はどれくらい増加する?
4-1-1.ケース①毎年基礎控除の110万円を贈与しているケース
【条件】
・被相続人の遺産総額:1億5,000万円
・相続人:子3人
・生前贈与額:毎年子3人に110万円ずつ
<改正前の相続税額の計算>
- 遺産総額1億5,000万円+生前贈与加算3年分990万円(110万円×3人×3年)=1億5,990万円
- 1億5,990万円-基礎控除4,800万円=課税遺産総額1億1,190万円
- 課税遺産総額1億1,190万円×法定相続分1/3×相続税率20%-200万円=各人の相続税額546万円
- 各人の相続税額546万円×3人=相続税の総額1,638万円
<改正後の相続税額の計算>
- 遺産総額1億5,000万円+生前贈与加算7年分2,010万円(110万円×3人×7年-緩和措置3人分300万円)=1億7,010万円
- 1億7,010万円-基礎控除4,800万円=課税遺産総額1億2,210万円
- 課税遺産総額1億2,210万円×法定相続分1/3×相続税率20%-200万円=各人の相続税額614万円
- 各人の相続税額614万円×3人=相続税の総額1,842万円
生前贈与加算7年延長の改正前の相続税額は1,638万円に対し、改正後の相続税額は1,842万円になり「約204万円」もの相続税の負担が増加することになります。
4-1-2.ケース②毎年300万円を子2人に贈与しているケース
【条件】
・被相続人の遺産総額:3億円
・相続人:子2人
・生前贈与額:毎年子2人に300万円ずつ
<改正前の相続税額>
- 遺産総額3億円+生前贈与加算3年分1,800万円(300万円×2人×3年)=3億1,800万円
- 3億1,800万円-基礎控除4,200万円=課税遺産総額2億7,600万円
- 課税遺産総額2億7,600万円×法定相続分1/2×相続税率40%-1,700万円=各人の相続税額3,820万円
- 各人の相続税額3,820万円×2人=相続税の総額7,640万円
<改正後の相続税額>
- 遺産総額3億円+生前贈与加算7年分4,000万円(300万円×2人×7年-緩和措置200万円)=3億4,000万円
- 3億4,000万円-基礎控除4,200万円=課税遺産総額2億9,800万円
- 課税遺産総額2億9,800万円×法定相続分1/2×相続税率40%-1,700万円=各人の相続税額4,260万円
- 各人の相続税額4,260万円×2人=相続税の総額8,520万円
ケース②では、生前贈与加算7年延長の改正前の相続税額は7,640万円に対し、改正後の相続税額は8,520万円になり「約880万円」もの相続税の負担が増加することになります。
5.相続時精算課税制度が改正、110万円を控除
生前贈与加算延長への対策として「相続時精算課税制度」を選択する方法があります。
相続時精算課税制度とは、相続の際に今まで贈与した財産を加算する制度で、2,500万円までは非課税で贈与することができます。ただし、少額の贈与であっても贈与税の申告書を提出する必要があります。
今回の税制改正大綱で相続時精算課税制度に110万円の基礎控除が導入され、年間110万円までの贈与については申告不要になります。
申告不要になった贈与は、生前贈与加算の対象外になります。
例えば、相続時精算課税を選択している場合、亡くなる前日に贈与を行ったとしても、その贈与については生前贈与加算が必要ありません。
この改正により、多くのケースで相続時精算課税を選択した方が有利になると考えられています。
ただ、相続時精算課税制度は1度でも選択してしまうと二度と変更することができない制度です。
相続時精算課税を検討される場合は、ご家族の状況、財産の状況を把握し、相続に詳しい税理士に相談しましょう。
6. まとめ
今回は相続税と贈与税の一体化の一環としての「生前贈与加算が3年から7年に延長」等について解説しました。
相続税と贈与税などについては、法律の専門家にご相談ください。
当事務所でも、税理士・弁護士・社労士・司法書士・不動産鑑定士・FP等と連携し、一つの窓口で相続に関する全てをサポートさせて頂いております。お気軽にご相談ください。