コラム
公開日:2022/01/06
更新日:2022/01/07

相続税の延納・物納とは|メリット・デメリットなど解説

相続税の納付は原則的に「現金一括納付」ですが、相続財産の多くが不動産や非上場株式などの場合、簡単に売却することができず、納税資金を工面することができないケースがあります。

このような相続税の現金一括納付ができない時のために相続税の「延納制度」と「物納制度」があります。ここでは、延納制度と物納制度の仕組みと期間、メリット・デメリット、延納から物納の変更などについてご紹介します。

1.知らないと損する延納と物納の基礎知識

相続税の延納と物納は、制度を知っているからといって簡単に利用できる制度ではありません。どちらの制度についても申請を行い「国からの許可」を得ることによってはじめて利用することができます。どういった状況であったら延納・物納制度を利用することができるのかを見ていきましょう。

1-1.延納とは

延納とは、相続税を分割で納付することができる制度です。分割と言っても、クレジットカードを利用した分割払いのような簡単な手続きではなく「現金がなくてどうしても相続税が納付できない場合のみ」利用できる制度です。

延納できる期間は原則的に5年以内になります。ただし、相続した財産の半分以上が不動産だった場合などについては、最長20年まで延納することができます。

1-2.物納とは

現金一括納税が困難であり、延納も難しい場合にはお金の代わりに「物」で相続税の納付を行うことができる制度を「物納」と言います。相続税額の全てが物納になるのではなく、まずは延納による納付が認められ、延納による納付でも足りない場合に物納が認められます。「物納は相続税が払えない時の最後の手段」と理解しておくといいでしょう。

1-3.延納が認められる金額

延納は相続税額の全てを対象にすることはできません。延納することが認められる金額(延納許可限度額)は、延納を利用する「相続人の財産」によって異なります。

次の計算式によって算出されます。

「延納許可限度額」=納付すべき相続税額-(①相続人の財産-②相続人と生計を一にする家族の3か月分の生活費-③相続人が事業している場合は1か月分の運転資金)

1-4.物納が認められる金額

延納を利用しても定期収入がないため返済することができない場合に限り物納が認められています。相続税額の全額を物納するのではなく、あくまでも延納しても納付することができない税額について物納が認められていますので注意しましょう。物納することが認められる金額(物納許可限度額)は次の計算式によって算出されます。

「物納許可限度額」=納付すべき相続税額-(①相続人の財産-②相続人と生計を一にする家族の3か月分の生活費-③相続人が事業している場合は1か月分の運転資金)-④延納によって納付することができる金額

※上記④の「延納によって納付することができる金額」とは、年間の収入から生活費や経費を差し引いた金額に臨時的な収入、支出を加味し、最長延納年数を乗じた金額のことを言います。

2.延納を利用するための4つの条件

延納を利用するためには4つの条件を満たす必要があります。

2-1.①相続税額が10万円超であること

延納が認められるのは相続税額が10万円超であることが条件です。10万円未満の少額な相続税の分割払いは認められていません。

2-2.②正当な理由があること

延納を利用するためには「相続税を現金一括納付ができない正当な理由」が必要です。なぜ現金での納付ができないのかを裏付ける書類などを準備するといいでしょう。

2-3.③担保を提供すること

延納をするためには国への保証が必要になります。もし延納していた相続税が支払えなくなった時の担保として財産を提供しなければなりません。担保に提供される財産は土地や有価証券、国債などがあります。

・土地

延納の担保に提供されることが一番多い財産です。どんな土地でも担保にすることができるわけではなく、担保にすることができる土地には3つの条件があります。

1つ目は「抵当権の設定ができること」です。国が抵当権を設定することで、土地の所有者が勝手に売却することを防止できるため、抵当権の設定は必須事項になります。

2つ目は「売却できる土地であること」です。買い手のつかないような土地であり、売却することができない土地は担保にすることはできません。

3つ目は「価値がある土地であること」です。延納の担保に提供するものであるため、延納する相続税額と延納により発生する利子税を賄える価値がある土地でなければ担保にすることはできません。

・有価証券

担保に提供できる有価証券は地方債や社債、株式などが該当します。担保としての評価額については、時価の8割以内で担保を提供している期間中に価格変動額を考慮して算出されます。

・国債

国債を担保に提供する場合は、原則として券面金額が担保としての評価額になります。

2-4.④延納に関する申請書を期限までに提出すること

延納に関する書類は「延納申請書」と「担保提供関係書類」があります。

この2つの書類を相続税の申告期限である「相続発生から10か月以内」に提出しなければなりません。

2-5.延納のメリット・デメリット|利子税に注意

延納を利用することのメリットは「一度に多額の相続税を支払わなくて済むこと」です。毎年分割して相続税を支払うことができます。

一方、延納のデメリットは延滞期間中に利子税(利息)が発生することです。

延納の利子税の税率は、相続財産に占める不動産の割合によって異なります。また、延納特例基準割合が変動することで税率が変動します。令和3年の動産にかかる相続税については0.7~0.8%、不動産にかかる相続税については0.4%の利子税が発生します。

詳しくは国税庁のホームページをご覧ください。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4211.htm

3.物納が認められる財産の優先順位

物納は、延納を利用しても相続税額を納税できない場合のみ利用することができる最後の納税手段です。どんな財産でも物納することができるわけではなく、物納に充てることができる財産には優先順位が設定されています。

優先順位 物納に充てられる財産の種類
第1順位 不動産、船舶、国債、有価証券など
第2順位 非上場株式など
第3順位 動産

原則的に優先順位が高い財産から物納に充てられます。ただし、担保権が設定されている財産や権利についての争いがある財産(管理処分不適格財産)、法律に違反して建設された建物(物納劣後財産)などは物納に充てることができません。

3-1.物納に必要な書類

物納を申請するには、次の書類を相続税の申告期限までに税務署へ提出しなければなりません。期限を過ぎると認められませんので注意しましょう。

  • 相続税物納申請書
  • 物納財産目録
  • 物納手続関係書類

3-2.物納のメリット・デメリット

物納を利用するメリットは「自分自身で財産を売却する必要がない」ことです。また、物納許可限度額までについては譲渡所得税が非課税になります。

一方、デメリットは物納が許可されるまでの期間について利子税(利息)が課されることです。その他、物納する財産の評価額が市場価格より低くなることもデメリットと言えるでしょう。

4.延納から物納への変更は10年以内であれば申請可能

延納により分割で相続税の納付を行っていたが、定期収入がなくなり相続税の分割払いが難しくなってしまった場合に、途中で延納から物納に変更する制度があります。

この制度を「特定物納」と言います。特定物納は、相続税の申告期限から10年以内に申請することが可能です。

ただし、特定物納は通常の物納と比べて審査が厳しく、物納の対象から小規模宅地等の特例等の適用を受けている土地が対象外になるなど、物納に充てる財産の範囲が狭くなります。

5.連帯納付義務は延納と物納の対象外

相続税の納付については「各相続人がお互いに連帯して納付しなければならない」というルールがあります。このルールを「連帯納付義務」と言います。

つまり、相続人の1人が相続税の納付を行っていなかった場合、他の相続人が代わって相続税を納付する義務が生じるのです。

この連帯納付義務は現金一括納付のみしか認められておらず、義務を負った他の相続人に現金がなく納付することができない場合であっても延納や物納を利用することができません。

また、他の相続人が連帯納付義務を負うことにより納税義務者との間に贈与の問題も発生します。連帯納付義務が発生する場合は専門家に相談しましょう。

 

6.遺産分割協議ができていない財産は物納の対象外

遺言書がない相続では、誰が・何を・どれくらい相続するのかを相続人全員で話し合う「遺産分割協議」を行わなければなりません。

しかし、相続人同士の話し合いがまとまらず、遺産分割協議がなかなか整わないケースもあります。

遺産分割協議ができていない財産は物納の対象外になりますので注意が必要です。遺産分割協議ができていない財産は、所有権が確定していない財産として取り扱われるため「管理処分不適格財産」に該当し、物納の対象外になってしまいます。

7.  まとめ

相続税を現金一括納付できない場合には、延納や物納による納付は重要な選択肢になります。

しかし、これらの制度を利用するためには条件があり、申請書類の準備も必要になります。「どれくらいの金額を延納することができるのか」「物納を検討した方がいいのか」など、早めから専門家に相談して準備を行っておくことが重要です。