コラム
公開日:2024/07/02
更新日:2024/07/02

換価分割と相続税|メリット・デメリット・遺産分割協議書の書き方

相続人全員で行う遺産分割協議では、1つ1つの遺産について誰が相続するのかを決める「現物分割」以外に、遺産を売却して金銭に変えたうえで、その金銭を相続人同士で分割する「換価分割」という分割方法があります。

相続財産を物理的に分けることができない不動産がある場合などの現物分割では相続人に対し公平に分けることが難しいケースにおいて、換価分割では売却した金銭を分けるため公平な遺産分割が可能になります。

ここでは、遺産分割方法の1つである「換価分割のメリット・デメリット、遺産分割協議書の書き方」について解説します。

1.換価分割とは

遺産分割には「現物分割」「換価分割」「代償分割」「共有分割」の4つの方法があり、換価分割とは、遺産を売却して現金に換え(換価)て遺産分割する方法です。

現物分割 換金せずに現物をそのまま分割する方法
換価分割 遺産を換金し、金銭を分割する方法
代償分割 相続人の一部が遺産を現物で相続し、他の相続人へ代償金を支払う方法
共有分割 相続人が遺産を共有して相続する方法

1-1.現物分割と換価分割の違い

現物分割は、遺産そのものを相続人同士で協議し、誰が何を相続するのかを決める方法です。

手続きもわかりやすく簡単であるため、遺産分割では最も一般的な分割方法です。

現物分割は簡単な遺産分割方法ですが、遺産に不動産など、1単位の評価額が大きい財産がある場合には、公平な遺産分割ができないというデメリットがあります。

換価分割の場合は、遺産を売却して金銭に換金した後で遺産分割を行うため1円単位での遺産分割が可能になり、公平な遺産分割を実現することができます。

2.換価分割のメリットとデメリット

換価分割には、次のようなメリットとデメリットがあります。

2-1.換価分割のメリット

2-1-1.公平な遺産分割が可能になる

不動産のような現物分割では分割しにくい遺産が多い場合、売却して分割を行うことで公平な遺産分割が可能になります。

2-1-2.納税資金に充てることができる

遺産に不動産が占める割合が多い場合、相続した金銭だけでは相続税の納付ができないケースが発生します。

換価分割で遺産を分割して金銭を相続することで、相続税の納税資金を確保することができます。

2-2.換価分割のデメリット

2-2-1.売却にかかる手間と費用が発生する

換価分割により不動産を売却する場合には、不動産価格の算定や仲介業者への依頼、売却先が決まった後の手続きなど、売却完了まで時間がかかります。

また、仲介料の支払いなど、売却に関する費用が発生します。

2-2-2.買いたたきにより高く売却できない場合がある

不動産を換価分割し、相続税の納税資金を確保する場合には、買いたたきにより高く売却できない場合があります。

相続税の納付期限までに売却したいという焦りから、市場価格よりも安く売却してしまうケースも少なくありません。

2-2-3.譲渡所得税が発生する

不動産を売却した場合には、売却益に対して譲渡所得税が課税されます。

購入した金額が分からない代々保有している不動産などの売却では、多額の売却益が発生してしまうケースも考えられます。

3.換価分割の遺産分割協議書の書き方

換価分割による遺産分割を行う場合、遺産分割協議書の書き方には「共有登記型の換価分割」と「単独登記型の換価分割」の2通りの書き方があります。

3-1.共有登記型の換価分割

共有登記型の換価分割とは、財産を相続する全員で相続登記を行い、その後に売却する方法です。共有登記型の換価分割を行う場合の遺産分割協議書の書き方は次のようになります。

共同相続人全員は、次の不動産を売却し、売却代金から仲介手数料、登記費用等売却にかかるすべての費用を控除した残金を各○分の1の割合で取得する。

(換価分割する不動産)

3-2.単独登記型の換価分割

単独登記型の換価分割は、売却手続きの簡素化を図るために相続人の中から代表者を1人決め、代表者単独で相続登記を行い、その後に売却する方法です。単独登記型の換価分割の遺産分割協議書の書き方は次のようになります。

1. 次の不動産は、換価分割を目的として、〇〇が取得する。

(換価分割する不動産)

2. 〇〇は、上記1で取得した不動産を売却し、売却代金から仲介手数料、登記費用等売却にかかるすべての費用を控除した残金を△△、□□が各○分の1の割合で取得する。

単独登記型の換価分割では「相続人の1人が代表して不動産の売却手続きを行うこと」と「売却後の残金を決められた割合で分配すること」をしっかりと明記する必要があります。遺産分割協議書に明記せずに売却代金を他の相続人へ分配してしまうと「贈与とみなされ、贈与税が発生してしまう可能性」があります。

また、遺産分割協議書に明記していても、売却活動を行わず、数年後に売却を行い、売却代金を他の相続人へ分配すると「贈与とみなされるおそれ」がありますので、速やかに売却活動を行いましょう。

4.換価分割に課税される税金

換価分割は遺産分割協議での分割方法であるため「相続税が課税されるのでは?」と思われる方もいらっしゃいますが、相続税には全く影響を与えません。相続税は、亡くなった時の財産に関するものになりますので、換価分割により遺産がいくらで売却されても相続税に影響を与えません。

換価分割を行った際に課税される主な税金は「譲渡所得税」です。譲渡所得税は、売却した代金から取得費や譲渡費用を差し引いた譲渡所得に対して課税される税金です。

  • 売却代金-(取得費+譲渡費用)=譲渡所得

換価分割による売却であっても、要件を満たせば「居住用財産3,000万円特別控除」「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」「取得費加算の特例(空き家特別控除との併用不可)」を利用することができます。

居住用財産3,000万円特別控除と空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除のどちらかが適用できる場合には、譲渡所得税がかからないケースも多くあります。

5.換価分割の具体的な流れ

換価分割を行う際には、次の6つのステップで手続きを行います。

5-1.遺産分割協議

遺産分割の方法として換価分割を選択する場合には、相続人全員が換価分割に同意している必要があります。

全員が納得できるように換価分割のメリット・デメリットについて協議を行いましょう。

5-2.遺産分割協議書の作成

遺産分割協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成します。換価分割に必要な文言を入れて遺産分割協議書を作成しましょう。

特に単独登記型の換価分割では、適正に作成しなければ贈与とみなされるリスクがあります。

5-3.不動産登記申請

対象の不動産の不動産登記(相続登記)を行います。登録免許税が発生しますので、準備しておきましょう。

相続登記は申請後1週間~2週間で完了します。

5-4.不動産の売却手続き

相続登記により名義人が相続人になると売却手続きを行うことができます。

共有登記型の換価分割では、全員の同意を得て不動産を売却することになります。

単独登記型では、代表者1人で手続きを進めることができるため、スムーズな不動産の売却手続きが可能です。

5-5.売却代金の分配

売却した売買代金を遺産分割協議書に明記したとおりに相続人の間で分配します。

各相続人の口座へ送金するなど、分配の事実が分かるようにしましょう。

5-6.譲渡所得税の申告

売却することで譲渡所得が発生する場合には確定申告が必要になります。

売却した年の翌年2月16日~3月15日の間に申告を行いましょう。特例を利用したことにより譲渡所得が発生しない場合にも、譲渡所得税が課税されなくても確定申告が必要です。

6.  まとめ

換価分割は、相続人の間で公平に遺産を分ける方法の1つです。

遺産分割が原因で発生してしまう争い事を回避する方法でもありますので、遺産に不動産が多い相続の場合は検討してみてはいかがでしょうか。

ただし、しっかりとした手続きを踏まなければ贈与と見られる可能性があります。

相続税と贈与税などについては、法律の専門家にご相談ください。

当事務所でも、税理士・弁護士・社労士・司法書士・不動産鑑定士・FP等と連携し、一つの窓口で相続に関する全てをサポートさせて頂いております。お気軽にご相談ください。