コラム
公開日:2023/06/16
更新日:2023/10/25

準確定申告で医療費控除を行う際の注意点を解説

「亡くなった方の医療費」は「準確定申告」で医療費控除ができる場合があります。

ただし、全ての医療費が医療費控除の対象になるわけではなく「医療費の支払い時期」や「医療費の内容」によって異なります。

ここでは、親や夫、妻などが亡くなった際の、準確定申告で医療費控除を受ける際の注意点について解説します。

1.準確定申告と医療費控除の関係

1-1.準確定申告は最後の確定申告

亡くなった方の収入に対して行う確定申告のことを「準確定申告」と言います。準確定申告は亡くなった人の相続人が代わりに行い、亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの所得の計算を行います。

準確定申告は、亡くなった全ての人が必要な手続きではなく、事業所得や不動産所得を有する人々など、生前に毎年確定申告を行っていた場合に主に必要となるケースがほとんどです。

準確定申告が必要になるかどうかが分からない場合は、まず亡くなった方が毎年確定申告を行っていたかどうかを確認してみましょう。

1-2.医療費控除とは税金を軽減する制度

また「医療費控除」は、本人や配偶者、その家族の医療費の支払いが一定の金額を超えた場合、確定申告を行うことで所得税額を軽減することができる制度です。

入院したりすると医療費の負担が多くなります。

医療費控除は、その医療費の負担の一部を税金の軽減という形でサポートする制度です。

亡くなった方の最後の確定申告である「準確定申告」でも通常の確定申告と同様に医療費控除を受けることができます。

準確定申告で医療費控除を行うことで所得税の還付を受けられる場合があります。

1-3.準確定申告の医療費控除はいつまで

準確定申告の申告期限は亡くなった日から4か月以内になっています。

また、還付申告であれば申告期限を過ぎていても亡くなった年の翌年から5年以内であれば還付申告を行うことが可能です。

ただし、申告期限後の申告で納税が発生する場合には無申告加算税、延滞税が発生する可能性がありますので注意しましょう。

2.準確定申告の医療費控除の範囲

「亡くなる前に長期間病院に入院していた」など、準確定申告で医療費控除を受けられるケースは多くあります。しかし、全ての医療費が準確定申告の医療費控除の対象になるわけではありません。

以下の表をもとに簡単に解説します。

医療費の支払者 亡くなった人 相続人(生計を一) 相続人(別居)
亡くなる日までに支払った医療費 対象 対象 対象外
亡くなった後に支払った医療費 対象外 対象 対象外

2-1.医療費控除の対象になる支払い時期

準確定申告の医療費控除の対象になる医療費は「亡くなる当日までに支払った医療費」です。

死亡当日に支払った医療費は準確定申告の対象ですが、死亡日以降に支払った医療費については、たとえ亡くなった人の財産から支払ったものであっても医療費控除に含めることはできません。

2-2.同居の相続人が医療費を支払っている場合

もし亡くなられた方の医療費を同居の相続人が支払っている場合、亡くなった方の準確定申告ではなく、医療費を支払った相続人が確定申告において医療費控除を受けることになります。

この場合、亡くなった後の医療費についても医療費控除を受けることが可能です。

2-3.別居の相続人が医療費を支払っている場合

なお、「別居」の相続人が医療費を負担している場合には、その相続人の確定申告で医療費控除を受けることはできません。

2-4.「亡くなった後」に支払った医療費は債務控除できる

所得税法上、亡くなった後に支払った医療費は、準確定申告での医療費控除になりません。

しかし、相続税法上ではなくなった人の「未払債務」になり、債務控除として相続財産から控除することができます。

医療費控除と債務控除は制度的に全く異なるものですので、混同しないように注意しましょう。

3.医療費控除の対象となる医療費の費目

3-1.主な費目

準確定申告で医療費控除の対象になるものには次のようなものがあります。

  • 治療の診療費用
  • 治療にかかる医薬品の費用
  • 病院への入院費用
  • 診療などを受けるための交通費(タクシーなど)
  • 介護老人保健施設に支払う介護費、食費、居住費などの費用
  • 指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホームなど)に支払う介護費、食費、居住費などの費用の2分の1
  • おむつ代(おむつ使用証明書が必要)

なお、診療などを受けるための交通費については、自家用車の場合、ガソリン代や駐車料金は対象になりません。

3-2.死亡診断書など医療費控除の対象となるかどうか個別の判断が必要な費用

医療に関する費用でも医療費控除の対象になるかどうかを、個別に判断しなければならない費用もあります。

例えば以下の費用です。

  • 入院の差額ベット代
  • 死亡診断書費用
  • おむつ代

差額ベット代は、本来患者の希望により個室などへ入院した場合に発生する費用です。そのため、差額ベット代は医療費控除の対象にはなりません。ただし、医療行為のために個室である必要がある場合など、医療行為や病院の都合により発生する差額ベット代は医療費控除の対象になります。

また、死亡診断書の費用についてです。公的年金や健康保険、生命保険、損害保険などの手続きには死亡診断書が必要になります。死亡診断書の発行費用は、治療行為には該当しないため医療費控除の対象にはなりません。ただし、相続税法上の債務控除として財産から差し引くことができます。

そして、最後におむつ代は通常、医療費控除の対象にはなりません。しかし、6か月以上寝たきりの状態であるなど、医師による治療におむつが必要だと認められる場合には医療費控除の対象になります。この場合、医療費控除の明細書に医師が発行した「おむつ使用証明書」の添付が必要になります。

3.医療費控除の計算方法|10万円を超える部分のみ

医療費控除は、原則として10万円を超える医療費を支払った場合に控除を受けることができます。

  • <医療費控除の計算式>
  • (支払った医療費の合計額-保険金などで補填される金額)-10万円※

※所得の合計額が200万円未満の場合は所得の5%になります

例えば、所得が200万円超で医療費の支払いが30万円、入院給付金が10万円である場合は次のような計算で医療費控除の金額を求めます。

  • (支払った医療費30万円-入院給付金10万円)-10万円=10万円

この場合、10万円の医療費控除を受けることができ、所得から差し引くことができます。

4.準確定申告の医療費控を受ける際の必要書類「医療費控除の明細書」

4-1. 医療費控除の明細とは

医療費控除を受けるためには、医療費の支払い明細を記載した「医療費控除の明細書」を作成し、準確定申告書に添付しなければなりません。

以前は、医療費の領収書の提出も必要でしたが、現在は領収書の添付が省略されています。

ただし、税務署から資料を求められた際には提出が必要になりますので、5年間は領収書を保存する必要があります。

4-2.医療費通知で記載を省略できる

令和4年1月以降にe-taxを利用して準確定申告を行う場合には、医療保険者などから交付を受けた「医療費通知」を添付することにより医療費控除明細書の記入を省略することができます。

ただ、医療費控除申請において、医療費通知を利用する場合は、以下の情報が必ず必要です。

  • ① 被保険者等の氏名
  • ② 療養を受けた年月
  • ③ 療養を受けた者
  • ④ 療養を受けた病院、診療所、薬局等の名称
  • ⑤ 被保険者等が支払った医療費の額
  • ⑥ 保険者等の名称

まとめ

今回は、準確定申告の医療費控除について解説しました。

亡くなった方の医療費は「亡くなった日以前に支払ったものなのか、それとも亡くなった後に支払ったものなのか」「亡くなった人が負担した医療費なのか、それとも相続人の一人が支払いをしたものなのか」などによって、医療費控除の取扱いが異なります。

準確定申告の医療費控除でお悩みの際はぜひ税理士にご相談ください。

当事務所でも、税理士・弁護士・社労士・司法書士・不動産鑑定士・FP等と連携し、一つの窓口で相続に関する全てをサポートさせて頂いております。お気軽にご相談ください。