コラム
公開日:2022/08/12
更新日:2022/08/12

遺産分割協議書は必要か|遺言書があっても、法定相続分どおりでも作るべき?

「遺産分割協議書は必要か」また「遺言書があれば遺産分割協議書はいらないのか」など疑問をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。

相続人が複数いる場合には、遺産分割協議書を作成した方がよいケースが多いです。

遺産分割協議書の作成は、相続人同士のトラブルの防止や、相続手続きの円滑化に繋がります。必要に応じて専門家のサポートを受け、適切な内容の遺産分割協議書を作成しましょう。

今回は、遺産分割協議書を作成する目的や、作成が不要なケース・必要なケースの例、遺産が預金だけの場合はどうすべきか、法定相続分どおり分ける場合はどうすべきか、遺産分割協議書を作らないとどうなるかなどを解説します。

1. 遺産分割協議書はなぜ必要か? 主な作成目的

遺産分割協議書を作成する主な目的は、相続人同士のトラブルを防止し、相続手続きの円滑化を図ることにあります。

1-1. 理由①合意内容を明確化して、相続人同士のトラブルを回避する

遺産分割協議書には、相続人全員で合意した遺産分割の内容を記載します。

口頭で合意するだけでなく、書面の形で遺産分割に関する合意内容を残しておくことは、相続人同士のトラブルを回避する観点から効果的です。
合意していること・していないことが明確になるため、紛争の深刻化・複雑化を防ぐことができます。

1-2.理由②遺産分割内容の証明書類になる|相続手続きに利用可能

不動産の相続登記や相続税申告などの手続きを行う場合、遺産分割の結果を証明する書類を提出しなければなりません。

これらの相続手続きを行う際には、遺産分割協議書の作成が必要です。相続人全員が印鑑登録された実印で遺産分割協議書を締結し、その遺産分割協議書の原本を利用すれば、相続手続きをスムーズに進めることができます。

2. 遺産分割協議書の作成が不要なケース

遺産分割協議書は、すべての相続において作成が必須というわけではありません。以下のいずれかに該当する場合、遺産分割協議書の作成は不要です。

2-1. 分割すべき遺産がない場合はどうなるか

遺産分割協議によって分割すべき遺産がない場合には、遺産分割協議書を作成する必要はありません。

そもそも被相続人が遺産を全く持っていなければ、分割すべき遺産がないため、遺産分割協議書の作成は不要です。

2-2. 遺言書があれば遺産分割協議書はいらないか

遺言書ですべての遺産の分け方が指定されている場合にも、遺産分割協議によって分割すべき遺産はないことから、遺産分割協議書の作成は不要となります。

2-3. 相続人・包括受遺者が計1人しかいないはどうなるか

「相続人」「包括受遺者」が計1人しかいない場合には、その人がすべての遺産を相続しますので、遺産分割協議書の作成は必要ありません。

まず、「相続人」となる者は、以下のとおりです。

(1)配偶者がいる場合

(a)子がいる場合
→配偶者と子

(b)子がおらず、直系尊属(父母、祖父母など)がいる場合
→配偶者と直系尊属

(c)子と直系尊属がおらず、兄弟姉妹がいる場合
→配偶者と兄弟姉妹

(2)配偶者がいない場合

(a)子がいる場合
→子

(b)子がおらず、直系尊属(父母、祖父母など)がいる場合
→直系尊属

(c)子と直系尊属がおらず、兄弟姉妹がいる場合
→兄弟姉妹

なお、以下の者は相続人としての資格を失います。

  • 相続発生前に死亡した者
  • 相続欠格に該当した者(民法891条)
  • 相続廃除の審判を受けた者(民法892条)
  • 相続放棄をした者(民法939条)

ただし、死亡・相続欠格・相続廃除の場合については、相続権を失った者に子がいる場合には、その者が代襲相続人となります(民法887条2項、3項、889条2項)。

次に、「包括受遺者」とは、遺言によって、割合を指定する形で遺産の贈与を受けた人のことです。

たとえば、「甥Aに遺産の3分の1を与える」という内容の遺言があれば、甥Aが包括受遺者となります。

上記の要領で相続人・包括受遺者を特定した結果、計1人しかいなかった場合には、遺産分割協議書の作成は不要です。

3. 遺産分割協議書を作った方がよいケース

相続人が複数存在し、かつ遺言書で分け方が指定されていない遺産がある場合には、基本的には遺産分割協議書を作成した方がよいです。

たとえば以下に挙げる場合には、遺産分割協議書を作成しなくてもよいように思うかもしれませんが、相続人同士のトラブルを防止する観点から作成をお勧めいたします。

3-1. 法定相続分どおりに遺産分割を行う場合

法定相続分どおりに遺産分割を行う場合、不動産の相続登記や相続税申告などの手続きを行う際に、遺産分割協議書を提出する必要はありません。

しかし、「法定相続分どおりに遺産分割を行う」という合意を明確化しておくことは、相続人同士のトラブルを防止する観点から意味があります。

そのため、簡易的な内容で構わないので、遺産分割協議書を作成しておいた方がよいでしょう。

3-2. 遺産が現金・預金だけの場合

遺産が現金・預金だけの場合、遺産の名義変更手続きが不要なため、遺産分割協議書の作成は必要ないようにも思われます(預貯金口座の解約は、相続人全員の同意があれば行うことができます)。

しかし、法定相続分どおりに遺産分割を行う場合と同様に、相続人同士の合意内容を明確化しておくことは、トラブル防止の観点から有益です。

また、被相続人名義の預貯金口座が多数にわたる場合には、遺産分割協議書を作成・提出すれば、相続人全員が個別に同意を与えることなく、円滑に解約手続きを進めることができます。

さらに後述するように、相続税申告が必要となる場合には、遺産分割協議書の作成が必要となります。

上記の理由から、遺産が現金・預金しかないとしても、遺産分割協議書を作成しておくことをお勧めいたします。

4. 遺産分割協議書の作成が必須となるケース

相続手続きとの関係で、以下のいずれかに該当する場合には、遺産分割協議書の作成が必須となります。

4-1. 法定相続分とは異なる割合で名義変更手続きを行う場合

不動産・自動車・船舶などの遺産は、登記・登録について名義変更を行う必要があります。

これらの財産につき、法定相続分とは異なる割合で遺産分割を行い、その結果に従って名義変更手続きを行う場合には、遺産分割協議書の作成が必須となります。

4-2. 法定相続分とは異なる割合で相続税申告を行う場合

相続財産(遺産)や、相続開始前3年以内に生前贈与された財産などは、相続税の課税対象となります。

相続税の課税対象財産が基礎控除額※を超える場合、相続税の申告が必要です。また、小規模宅地等の特例など、各種の特例・税額軽減の制度を利用する際にも、相続税の申告が必要となります。

相続税申告が必要となるケースで、法定相続分とは異なる割合で遺産分割を行った場合、遺産分割協議書を添付しなければなりません。相続税額が、実際の相続割合に従って各相続人に分配されるからです。

5. 遺産分割協議書を作成しないとどうなる?

相続人が複数存在し、かつ遺言書で分け方が指定されていない遺産があるにもかかわらず遺産分割協議書を作成しない場合どうなるのか心配な方もいらっしゃることでしょう。作成しない場合、以下の弊害が生じてしまいます。

そのため、遺産分割の合意がまとまったら、確実に遺産分割協議書を作成しておきましょう。

5-1. 名義変更手続きが滞ってしまう

不動産・自動車・船舶などの名義変更手続きは、遺言書や法定相続分のとおりに相続する場合を除いて、遺産分割協議書がなければ行うことができません。

遺産分割協議書の作成が送れると、これらの遺産の名義変更も遅れてしまうことになります。

5-2. 相続税申告の期限を過ぎるおそれがある

相続税申告は、相続の開始を知った時から10か月以内に行う必要があります。

前述のように、法定相続分とは異なる割合の遺産分割を前提として相続税申告を行う場合、遺産分割協議書を添付しなければなりません。もし遺産分割協議書の作成が遅れると、相続税申告の期限に間に合わないおそれが生じてしまいます。

なお、遺産分割協議書の作成が期限に間に合わない場合、ひとまず法定相続分に従って遺産分割を行ったと仮定して相続税申告を行います。
その後に遺産分割協議書を作成し、更正の請求や修正申告を行う際に税務署へ提出すれば、正しい相続税額による申告・納付を行うことが可能です。

しかし、更正の請求や修正申告は二度手間となりますので、早い段階で遺産分割協議書を作成しておくに越したことはありません。

5-3. 相続人同士のトラブルの原因となる

遺産分割協議書を作成しないと、遺産分割の結果を証明する客観的な資料が存在しないことになります。

相続人同士の関係性が良好であれば大丈夫ですが、万が一揉め事が生じた場合には、遺産分割のやり直しを求められるなどの可能性が否定できません。
遺産分割の不当な蒸し返しを防ぐためにも、遺産分割協議書を確実に作成しておくことをお勧めいたします。

6. まとめ

今回は、遺産分割協議書が必要な場合・不要な場合、また遺言書があれば遺産分割協議書はいらないか、法定相続分どおりの場合はどうなるか、作らないとどうなるか、相続税申告時に遺産分割協議書なしの場合はどうなるか、遺産が預金だけの場合はどうするかなどについて解説致しました。

分割すべき遺産がないケースや、相続人・包括受遺者が計1人しかいないケースを除けば、基本的には遺産分割協議書を作成しておくべきです。

遺産分割協議書の作成方法がわからない場合には、必要に応じて専門家のアドバイスを求めましょう。相続トラブルの防止・相続手続きの円滑化など、さまざまな観点からサポートを受けられます。