コラム
公開日:2022/08/12
更新日:2022/08/12
公正証書遺言の作り方や費用・必要書類を分かりやすく解説
遺言書と言えば、全て自筆で遺言者が作成し保管する「自筆証書遺言」を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、自筆証書遺言のデメリットとして、遺言書の要件を満たさず無効になることがあったり、相続人に発見してもらえなかったり、隠蔽や変造されてしまうリスクも無きにしもあらずです。
これらのリスクを回避するには、公証人という第三者に依頼することで作成できる「公正証書遺言」が大変有効です。ここでは、公正証書遺言の作り方、書き方や必要書類、費用をわかりやすく解説します。
目次
1. 公正証書遺言・公証人とは
公正証書遺言の作成の要件
公正証書遺言とは「公証人」が作成した安全性、確実性の高い遺言書です。また、公証人とは、判事や検事などの法律実務を長年経験した人の中から法務大臣が任命する公務員です(ここでいう公務員は国家公務員法上の公務員ではありません)。
公正証書遺言の作成の要件は以下の通りです。
- 証人2人以上の立会いがあること
- 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること
- 公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせること
- 遺言者と証人が筆記の正確なことを承認後、各自これに署名し、押印すること*
- 公証人が作成したものであることを付記して署名押印をすること
*なお、遺言者が病気などで署名することができないとき、公証人はその事由を付記して、署名に代えることが可能です。
公証役場と遺言検索システム
法律のスペシャリストである公証人が作成、保管する公正証書遺言は、無効や紛失・盗難のリスクがありません。
公証人の事務所である公証役場では、遺言検索システムにより遺言書に関するデータが管理されており、全国どこで作成された公正証書遺言であっても検索可能です。
また、公正証書遺言の原本保管の安全性も高まっており、大規模自然災害に備えて原本の二重保管を多くの公証役場で実施しています。
2. 公正証書遺言の3つのメリット
公正証書遺言には、自筆証書遺言にはないメリットとデメリットがあります。作り方の前にメリット・デメリットをわかりやすく解説します。
メリット①安全性と確実性がある
上記でも解説致しましたが、公正証書遺言の原本は公証役場で保管されます。そのため、紛失盗難のリスクもなく安全です。
またそれだけではなく、法律のスペシャリストである公証人が作成する公正証書遺言は、複雑な内容であっても法的に整理した内容で作成されます。
そのため、書き方が分からず、遺言書に不備があり無効なってしまうおそれは一切ありません。
メリット②体が不自由な場合でも遺言書が作成できる
自筆証書遺言では、財産目録以外の部分を自書しなければなりませんが、体が不自由で自書できない場合もあります。
しかし、公正証書遺言は、公証人が遺言書を作成するため遺言者が自書する必要はありません。
公証人が署名できない理由を書き、職印を押すことによって遺言者の署名に代えることができます。
また、体が不自由で公証役場に出向くことが難しい場合は、公証人に出張してもらうことが可能です。公証人が自宅や病院、老人ホームなどに出張し、公正証書遺言書を作成します。
メリット③検認手続きが必要ない
自筆証書遺言は、相続が発生し、遺言書を開封する前に「検認手続き」を行わなければなりません。
検認手続きとは、家庭裁判所で遺言書の状態や内容を確認する手続きです。この検認手続きは、家庭裁判所に申し立て、実際に手続きが行われるまで1~2か月の期間*が必要になります。
*ただし、令和2年より開始した「自筆証書遺言書保管制度」を利用することで、検認手続は省略することが可能になっています。
■参考記事
一方で、公正証書遺言は、既に公証人による内容のチェックが入っているため検認手続きは必要ありません。
そのため、相続人は相続開始後、速やかに遺言書の内容を確認することができます。
3. 公正証書遺言のデメリット
デメリット①手数料が発生する
公正証書遺言には、公証役場に支払う「手数料」が発生します。
具体的な金額は後述致しますが、手数料は遺言書に記載する財産の価格で異なり、財産が多ければ多いほど手数料の金額も高くなります。
デメリット②証人が2人以上必要になる
公正証書遺言を作成する際に、証人が2人以上立ち会わなければなりません。
証人は遺言の内容を知ってしまうため、誰でもなることができるわけではありません。例えば、
- 遺言で財産を受け取る人やその家族
- 遺言者の推定相続人になる人やその家族
- 未成年者
などは証人になれません。別途、証人になってくれる第三者を見つけなければなりません。
司法書士事務所や弁護士事務所を通して公正証書遺言書を作成する場合は、各事務所が証人を用意してくれるケースもあります。
税法以外の法律相談を連携した弁護士、司法書士との相談のうえで承ることも可能
4. 公正証書遺言の作り方
公正証書遺言書を作成するためには、次の手順で進めていきます。以下わかりやすく解説致します。
① 遺言の内容を整理する
遺言書の内容である「誰に、何を、どれくらい渡すか」を明確にします。
遺言書の内容は、遺言者の想いだけではなく、法的・税務的な観点からも検討するといいでしょう。
例えば「長男に全ての財産を相続させる」などの偏った遺言書は、遺留分などの問題が発生してしまいがちです。
司法書士や弁護士、税理士などの専門家に書き方・作り方がわからない場合、事前に相談されることをおすすめします。
当事務所でも遺言作成アドバイスを手掛けており、税法以外の法律相談を連携した弁護士、司法書士との相談のうえで承ることも可能です。
お気軽にご相談ください。
■鯨井会計グループ
https://www.kujirai-kaikei.com/
② 必要書類の収集
公正証書遺言の作成に必要になる書類を準備します。以下の書類などが必要になります。
- 遺言者本人の3か月以内に発行された印鑑登録証明書(又は運転免許証、パスポートなど身分証明書)
- 推定相続人が分かる戸籍謄本
- 財産の中に不動産がある場合には、その登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産評価証明書・固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
また以下のようなメモも準備するとなおよいでしょう。
- 遺言の内容を書いた遺言書案又はメモ
- 株式等の有価証券、ゴルフ会員権、預貯金、現金等の種別とだいたいの金額を書いた一覧表メモ
- 証人2名の氏名・職業・住所・生年月日のメモ
預貯金、株式について、個別に公正証書に記載することをご希望の方は、 以下のものがわかるものをご準備ください。
- 預金については、金融機関名・支店名
- 貯金については、記号番号
- 株式については、預託先の証券会社名・支店名
その他、財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の住民票なども必要になります(法人の場合には、その法人の登記事項証明書(登記簿謄本))。このように、必要書類は遺言内容によって異なることもあり、まずは公証役場に確認することをおすすめします。
■参考
http://www.k-kosho.jp/index01b.html
③ 証人を2人以上用意する
遺言者の推定相続人やその親族以外の人から証人を2人以上用意しなければなりません。実際には、遠い親族や友人などに依頼するケースが多いです。
専門家に相談すれば事務所スタッフなどが証人になってもらえる場合もあります。証人の本人確認書類が必要です。
④ 公証人との事前打ち合わせ
どういった内容の遺言書にしたいのかを「公証人」と事前に打ち合わせを行います。
遺言の内容を整理したものと必要書類が必要になりますが、事前打ち合わせに証人は必要ありません。
また、専門家に依頼している場合は、事前打ち合わせの必要はありません。
⑤ 公正証書遺言書の作成
公証人が遺言書を作成し、遺言の内容に間違いがないか読み上げます。
内容に間違いがない場合は、遺言者と証人が署名押印(遺言者は実印)し、その後に公証人が署名押印することで公正証書遺言が完成します。
公正証書遺言書は3通作成され、1通は原本として公証役場に保管、2通は遺言者に渡されます。
5. 公正証書遺言の作成にかかる費用
公証人へ支払う費用
公証人に支払う手数料は法令によって定められており、遺言書に記載する財産の価格によって異なります。
(出典:日本公証人連合会)
その他、遺言加算(財産が1億円までは11,000円)、遺言書の枚数による加算(4枚を超えた場合に1枚ごとに250円)、正本・謄本の交付手数料(250円×枚数)が加算されます。公証人に出張を依頼した場合は、日当や交通費が加算されます。
自分で対応するか、法律の専門家にサポートを依頼するかで費用は変わる
公正証書はご自身で作るケースもありますが、法律の専門家に依頼して作成するケースも多いです。
例えば、司法書士事務所や弁護士事務所にサポートを依頼するケースがあります。
この際に、公証人への手数料以外の費用が発生し、また専門家が証人を用意した場合は別途費用がかかります。
詳細は、ホームページに記載された料金プランなどをご確認ください。
また、当事務所でも遺言作成アドバイスを手掛けており、税法以外の法律相談を連携した弁護士、司法書士との相談のうえで承ることも可能です。
お気軽にご相談ください。
■鯨井会計グループ
https://www.kujirai-kaikei.com
6. 公正証書遺言について知っておくべきこと
公正証書遺言の訂正は基本的にできない
公正証書遺言を作成後「心境の変化により一部を訂正したい」と思われることもあると思います。誤字や脱字程度の軽微な誤りであれば、公証人から誤記証明書を発行してもらうことができますが、内容自体を訂正したい場合は、新しい遺言書を作成する必要があります。
遺言書は日付が新しいものが優先されますので、新たに公正証書遺言もしくは自筆証書遺言を作成することで遺言書の内容を変更することができます。
公証人には遺言内容を相談できない
公証人は、法的に有効な遺言書の作成をしてくれます。
しかし「この財産を誰に渡した方がいいだろうか?」など、遺言書の内容についての相談は公証人にはできません。
遺言書の内容については、司法書士や弁護士などの法律の専門家に相談しましょう。
7. まとめ
今回は、公正証書遺言の作り方や費用・手数料、必要書類などをわかりやすく解説致しました。
公正証書遺言は多少の費用がかかってしまいますが、自筆証書遺言に比べて安心性と確実性の高い遺言書です。
遺言者の意思を確実に伝え、遺された親族間で争いが起こらないためにも生前に公正証書遺言を作成してみてはいかがでしょうか。