コラム
公開日:2021/09/07
更新日:2021/10/25
相続放棄の手続きや流れ|自分でやることも可能か?
親族が亡くなり相続が発生した時、置かれている様々な状況により「相続放棄」を選択される方もいらっしゃると思います。
相続放棄を弁護士や司法書士に依頼すると費用が発生するため、自分で手続きを行おうと考えられている方も少なくありません。ただ、自分で手続きを行うと「相続放棄のやり方がわからない」「認められなかったらどうしよう」「家庭裁判所から呼び出しがきたらどうしよう」などの不安を抱えてしまうこともあるようです。
今回は、相続放棄の手続きや流れ、必要なものについてわかりやすくご紹介します。
1.相続放棄とは?相続放棄の基礎
1-1.相続放棄とは
相続放棄とは、亡くなった人の財産を相続する権利を放棄する一度きりの手続きです。
相続人には「正の財産」も「負の財産」も一切引き継がれることはありません(ここで言う「正の財産」とは預貯金や不動産など。また「負の財産」とは借金やカードローンなどが含まれます。)。
一般的には、正の財産より負の財産の方が多い場合に相続放棄を検討します。
なお、相続したい正の財産(自宅など)がある場合は、相続放棄ではなく「限定承認」を検討する必要があります。
限定承認とは、相続した正の財産の範囲内で負の財産を相続することを言います。
- 相続放棄⇒正の財産・負の財産の全てを相続しない
- 限定承認⇒相続する正の財産分の負の財産を相続する
なお、限定承認については別途コラムで解説する予定です。
1-2.相続放棄は原則3か月以内に行う
通常の相続(単純承認)以外を選択する場合は、相続が開始したことを知った日(亡くなった日)から「3か月以内」に相続放棄か限定承認のどちらにするかを選択して手続きを行わなければなりません。
期間内に手続きを行わなければ、原則的に通常の相続による相続になり、正の財産も負の財産も全て相続することになります。
ただし、3か月を過ぎてしまったら必ずしも相続放棄ができないわけではなく、家庭裁判所に申し立てを行い、相続放棄の期間の延長が認められると手続きが可能になります。延長が認められるためには「財産調査に時間を要し、相続放棄が必要か考える期間が必要だった」など、家庭裁判所が相当と認める理由が必要になります。
ただ「手続きする時間がなかった」など、個人的な理由による延長は却下される可能性が高いです。
2.相続放棄をする際の流れ
相続放棄をする際は次のような流れになります。
Step1:相続放棄をするべきかの検討
相続放棄を考える場合「本当に相続放棄をするべきかどうか」を第一に検討しなければなりません。一般的に次のようなケースで相続放棄を検討します。
明らかに負の財産が正の財産よりも多い場合
先述した通り、通常の相続は、全ての財産を引き継ぎます。そのため、借金などの負の財産も引き継いでしまうため「借金返済義務」が生じます。
明らかに負の財産が多い場合は相続放棄を検討しましょう。
誰かの連帯保証人になっている場合
亡くなった方が誰かの連帯保証人になっている場合「連帯保証債務」が発生します。
連帯保証人とは、本来の債務者が借金の返済を行わなかった場合に連帯保証人が代わりに借金を返済するという契約のことです。連帯保証人になると「連帯保証債務」が生じることになり、この義務は相続により引き継がれてしまいます。
亡くなった方が誰かの連帯保証人になっているケースは相続放棄の検討が必要です。
他の相続人と疎遠で関わりたくない場合
他の相続人と関係が気薄であり、相続問題に関わりたくない場合は、相続放棄を行うことで関わらずに済むケースもあります。
特定の相続人に財産の全てを引き継がせたい場合
会社を経営している人など、後継者に全て自分の財産を引き継がせたいケースが考えられます。
他の相続人も了承している場合は、他の相続人全員が相続放棄することで残された相続人である後継者に全ての財産を相続させることができます。
ただし、相続人同士でトラブルに発展するケースもあります。
Step2:相続放棄に必要なもの・必要書類・費用を用意する
相続放棄を行うかどうか慎重に検討した上で、相続放棄を行うことに決めた場合は必要な書類を用意しましょう。
【相続放棄に必要な主な書類】
・亡くなった方の戸籍謄本
・亡くなった方の住民票又は戸籍の附票
・相続放棄をする人の戸籍謄本
・相続放棄申述書
・郵便切手
・収入印紙800円分(申述人1人につき)
ただし、相続人の続柄によって追加で書類が必要になる場合があります。詳しくは下記裁判所のページをご参考ください。
■関連サイト
また、上記書類のうち、自分で作成しなければならないものは「相続放棄申述書」です。
相続放棄申述書は、申述の趣旨や相続放棄の理由、相続財産の概略などの事項を記載しなければなりません。
相続放棄にかかる費用は、戸籍謄本や住民票、附表などの取得費用と収入印紙800円、書類返送用の郵便切手代になります。
Step3:家庭裁判所に書類を提出する
書類は「亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」に提出する必要があります。
管轄の家庭裁判所をしっかりと確認しましょう。申請する方が遠方に住んでいる場合はであれば、郵送により書類提出を行うことも可能です。
Step4:照会書に回答し家庭裁判所へ郵送する
家庭裁判所に相続放棄に必要な書類を提出すると、家庭裁判所より「照会書」が送付されてきます。
照会書の内容は、亡くなったことを知った日と知った経緯、相続放棄する理由、借金などについてです。質問の回答を記入して家庭裁判所へ郵送します。
Step5:相続放棄申述受理通知書を郵送で受け取る
照会書の回答(回答書)の郵送し、問題がなければ10日前後で「相続放棄申述受理通知書」が郵送で届きます。
「相続放棄申述受理通知書」を受け取ることで相続放棄手続きは完了します。その後、家庭裁判所へ「相続放棄申述受理証明書」の申請を行い取得することで相続放棄を公的に証明することが可能です。
3.自分で相続放棄を行って困ること
ここまでご紹介した手順により相続放棄手続きを自分で行うことができます。しかし、自分で手続きを行って困ってしまうことがあります。
3-1.相続放棄照会書の回答書を作成しなければならない
相続放棄照会書の回答書は、相続放棄の申請が他の第三者によって行われていないかどうか、相続放棄に適正な理由があるかどうかを家庭裁判所が確認するものです。相続放棄に複雑な事情がなければ自分で回答書を作成することは難しくはありませんが、複雑な事情がある場合は回答書の作成に苦労してしまうかもしれません。
また、3か月という期間を過ぎて相続放棄を行う場合には「なぜ手続きが遅れたのか」ということを回答しなければなりません。相当な理由がなければ期間延長が認められず、相続放棄ができなくなってしまいます。どのように回答書を作成するかによって相続放棄ができるかどうか変わってきますので慎重に回答書を作成しましょう。
3-2.家庭裁判所から呼び出しに対応しなければならない場合がある
相続放棄の書類を提出後、多くの場合は相続放棄照会書が郵送されてきますが、慎重な審理が必要な場合には家庭裁判所から呼び出されることがあります。
その場合は、家庭裁判所に出向いて事実確認を行う必要があり、弁護士や司法書士に依頼していない場合は全て自分で対応しなければなりません。
4.弁護士や司法書士に依頼した方がいいケース
複雑でない状況であれば自分で相続放棄を行うことができますが、次のような状況であれば弁護士や司法書士に依頼した方がいいでしょう。
4-1. 確実に相続放棄を行いたい場合
相続放棄は一度きりの手続きです。回答書などの不備により申し立てを却下された場合、相続放棄の再申請を行うことができません。高等裁判所へ即時抗告という手続きをすることができますが、高等裁判所で認められることはあまりありません。確実に相続放棄を行いたい場合は初めから弁護士や司法書士に依頼しましょう。
4-2. 他の相続人とのトラブルを回避したい場合
相続放棄を行うことで相続権が次の順位に移ることがあります。次の順位の人へ相続放棄のことを知らせておかなければ、次の順位の相続人は負債を相続することになりかねませんのでトラブルに発展する可能性があります。疎遠になっている相続人や次の順位の親族がいる場合には、弁護士や司法書士に依頼して前もってお知らせしてもらい、トラブルにならないようにしましょう。
4-3. 3か月を過ぎて相続放棄をする場合
3か月の期間を過ぎて相続放棄を行う場合は、なぜ遅れたのかを回答書で説明しなければなりません。この説明は慎重に行わなければ却下されてしまい、相続放棄ができなくなってしまいます。そうならないためにも弁護士や司法書士へ相談されることをおすすめします。
4-4. 相続財産に不動産がある場合
相続財産に不動産がある場合、相続放棄を行っても次の所有者が決定するまで対象の不動産の管理を行わなければなりません。引き継ぎ先がなかなか見つからない場合は、長期間の管理が必要になるため管理にかかる負担がでてきます。
このような場合についても専門家に依頼し、負担が少なくなる方法のアドバイスをもらうといいでしょう。
5. まとめ
今回は「相続放棄の手続きや流れ」や自分で対応した場合にどうなるかについてご紹介しました。
相続放棄は定められた手続き期間が短く、家庭裁判所から一度却下されると再び申し立てできない手続きです。自分で書類を取得して手続きを行うこともできますが、確実に相続放棄を行いたい場合や手続きに不安がある場合は法律の専門家である弁護士や司法書士に相談してみましょう。