コラム
公開日:2021/05/17
更新日:2021/05/17

死因贈与とは|遺贈との違いは?相続税の対象?契約書は必要?

亡くなった後に財産を継承する方法には相続や遺贈だけではなく、「死因贈与」により財産を新しい世代へと移転する方法があります。死因贈与は、メリット・デメリットがあり、状況によって選択すべきか判断する必要があります。

ここでは「死因贈与の特徴や遺贈や相続との違い」についてご紹介します。

1.死因贈与と相続・遺贈の違い

1-1.死因贈与とは

死因贈与とは、簡単に言うと「死亡したことを原因として贈与を行うこと」を言います。

もう少し細かく言うと、財産を渡す人(贈与者)ともらう人(受贈者)が、「贈与者が死亡した後に、事前に指定した財産を贈与する」旨の贈与契約を行うことです。

1-2.相続・遺贈との違い

亡くなったことを原因として財産が移転する方法は死因贈与以外にも「相続」と「遺贈」があります。

相続

相続とは、被相続人(亡くなった人)の財産が配偶者や子、親や兄弟姉妹などの近い関係の親族(法定相続人)に移転することを言います。

遺贈

被相続人の遺言によって被相続人の財産が移転することを遺贈と言います。

死因贈与は契約であり、遺贈は「遺贈者の一方的な意思表示による単独行為」で、この点に違いがあります。

なお、相続と遺贈・死因贈与の違いは、相続は、何もしなくても自動的に起こりますが、遺贈と死因贈与は遺言や契約により「財産を誰に移転するのか」という被相続人の意思を反映できることが特徴です。

2.死因贈与のメリット・デメリット

死因贈与には、その特徴からメリットになる部分とデメリットになる部分があります。それぞれ見ていきましょう。

死因贈与のメリット①口頭も可。書面でなくても成立する

死因贈与契約は、書面でなく口頭で行ったとしても認められる可能性もあります。

死因贈与は、原則的に「遺贈に関する規定」が準用されますが、死因贈与の方法は「遺言の方式に関する規定」は準用されません。

遺言は厳格に文言や日付、自署押印などのルールが決められているのに対し、死因贈与についてはそのような厳格なルールがありません。

なお、契約書がなく口頭での死因贈与契約になると、後々トラブルになる可能性があるため、書面で死因贈与契約を行うことをおすすめします。

死因贈与のメリット②放棄されることがない

死因贈与は、贈与者と受贈者の合意により成立する契約です。そのため、受贈者は贈与者が亡くなった後に成立した契約を放棄することはできません。

贈与者にとっては必ず財産を渡すことができるというメリットがあります。

死因贈与のメリット③負担付き死因贈与契約で受贈者の権利が守られる

死因贈与には、受贈者にとって負担がついてくる「負担付き死因贈与契約」という方法があります。

これは、受贈者が財産をもらう代わりに何かを負担する契約のことです。例えば、父親の介護を条件に不動産を死因贈与する契約などがあげられます。

負担付き死因贈与契約は、契約後に贈与者が勝手に破棄することは認められていません。

要するに、上の例で言うと、父親の介護中に父親が心変わりし、負担付き死因贈与契約を破棄することができないということです。

負担付き死因贈与契約では、受贈者の権利がしっかりと守られることが受贈者にとってメリットになります。

死因贈与のデメリット①税金が高くなる

死因贈与により土地や建物などの不動産を移転すると、不動産登記にかかる登録免許税が遺贈と比べて高くなる場合があります。

遺贈による移転では、相続人の場合0.4%、相続人以外の場合2%の登録免許税が必要です。

一方、死因贈与による移転では「相続人、相続人以外に関わらず常に2%」になります。

つまり、相続人に不動産を死因贈与により移転する場合は、登録免許税が高くなってしまいます。

死因贈与のデメリット②負担付き死因贈与は途中で破棄できない

負担付き死因贈与契約では、受贈者の権利は守られますが、贈与者にとっては途中で契約を破棄することができないことがデメリットになる可能性があります。

3.遺贈のメリット・デメリット

死因贈与のように被相続人の意思を反映する方法である「遺贈」についてのメリット・デメリットを簡単に見ておきましょう。

遺贈のメリット①亡くなるまで秘密にできる

死因贈与が贈与者と受贈者との契約に対し、遺贈は遺言による被相続人の意思表示のため誰からも了承を得る必要はありません。

そのため、遺言書を誰にも見られない場所に隠しておけば亡くなるまで遺言書の内容を見られる心配がありません。

ただ、公正証書遺言であれば、公証人や証人に内容を知られてしまいますが、自筆証書遺言や秘密証書遺言であれば誰にも知られることはありません。

遺贈のデメリット①放棄される可能性がある

死因贈与では生前の契約を亡くなった後に破棄することができないため、確実に財産を渡すことができます。一方、遺贈は一方的な意思表示であることから財産をもらう人(受遺者)は遺贈を放棄することが可能です。

遺贈のデメリット②無効になる可能性がある

遺贈の遺言書には厳格なルールがあります。公正証書遺言であれば公証人が作成しますので無効になることはありませんが、自分で作成する自筆証書遺言の場合、日付や自署押印などの記載漏れがあると遺言書自体が無効になってしまう可能性があります。

4.死因贈与の方法|契約書のひな形例

死因贈与契約は書面以外でも成立しますが、将来のトラブルを防ぐためにはしっかりと書面で贈与契約を結んでおくことをおすすめします。

死因贈与契約のフォーマットは特段決まったものがあるわけではありませんが、次のひな形のような文面で契約書を作成するといいでしょう。

死因贈与契約書

第1条 贈与者○○○○(以下、「甲」という。)は、受贈者○○○○(以下、「乙」という。)に対し、甲の死亡によって効力を生じ、死亡と同時に所有権が乙に移転するものと定めて、甲の所有する全財産を贈与することを約し、乙はこれを受諾した。

第2条 甲は、下記の者を執行者に指定する。

住 所 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
氏 名 ○○○○
生年月日 ○○年○月○日

以上のとおり、契約が成立したので、本契約書を2通作成し、各自署名押印の上、各1通を保有する。

平成○○年○月○日
甲)住所
氏名              印
乙)住所
氏名              印

5.死因贈与のよくあるQ&A

Q.死因贈与は相続税ですか?贈与税ですか?

A.死因贈与は贈与契約のため相続税ではなく贈与税が課税されると思われがちです。

しかし、死亡を条件とした贈与契約のため「相続税」の対象になります。

死因贈与によって財産を継承した場合、通常の相続税の申告と同じように相続が発生してから10か月以内に相続税申告書の提出と相続税の納税が必要です。

また、死因贈与の受贈者が一親等の血族および配偶者以外である場合は、通常の相続と同じように相続税額の2割加算が行われることになります。

Q.自宅について父と死因贈与契約をしたのに、遺言書に自宅は弟へ遺贈すると書かれていた場合、どうなる?

A.この場合、「作成した日付が新しい方が優先される」ことになります。

死因贈与は遺言に準用することになっているため、仮に死因贈与契約を行った後に遺言書を作成した場合であれば遺言書が優先されることになります。

Q.公正証書で死因贈与契約書を作った方がいいの?

A.死因贈与契約は書面で行わなくても成立する贈与契約ですが、後々のトラブルを避けるため契約書を作成することをおすすめします。

公正証書にするかどうかについては費用が発生するため個人の判断によりますが、公正証書で作成することで不動産の仮登記をする場合や本登記をする場合に手続きがスムーズに行うメリットがあります。

Q.不動産の仮登記は必要?

A.不動産の死因贈与契約を行った場合、生前に「始期付所有権移転仮登記」という仮登記が可能です。

仮登記を行うことで、贈与者は死因贈与契約を一方的に破棄することができなくなるため、受贈者の権利が守られることになります。

この始期付所有権移転仮登記は、贈与者と受贈者が共同で行うことが原則です。ただし、死因贈与契約書が公正証書により作成され、贈与者が所有権移転の仮登記を申請することを認諾していることが確認できる場合は、受贈者単独で仮登記の申請を行うことができます。

仮登記は必ずしも行う必要はありませんが、受贈者の権利を保全する方法であるため、将来のトラブルを回避したい場合や確実に不動産を移転したい場合は仮登記することをおすすめします。

Q.死因贈与の執行者を決めていた方がいい?

A.死因贈与契約書で執行者を定めておいた方がスムーズに手続きを行うことができます。

特に不動産を死因贈与するケースでは、公正証書により死因贈与契約書を作成することで他の相続人の協力を得ることなく不動産の登記を行うことができます。

Q.死因贈与契約はいつでも撤回できるか?

A.死因贈与契約は「遺贈の撤回に関する規定(民法1022条以下)」が準用されるため、贈与者はいつでも「撤回することが可能」です。

ただし、負担付き死因贈与契約である場合で既に受贈者が負担を履行している場合には撤回することができません。

また、贈与者が亡くなった後については、原則的に受贈者が死因贈与契約を撤回することはできません。例外的に「書面によらない死因贈与」など、撤回できる場合もあります。

Q.死因贈与は遺留分減殺請求の対象か?

A.死因贈与は遺留分減殺請求の対象になります。

減殺される順番は第1順序「遺贈」、第2順序「死因贈与」、第3順序「贈与」で行われることになります。

遺贈を減殺しても遺留分侵害額の回復ができない場合に死因贈与が遺留分減殺請求の対象になります。

6. まとめ

今回は「死因贈与契約」についてご紹介しました。

死因贈与は負担付き死因贈与契約や不動産の仮登記などのメリットのある生前対策です。死因贈与がいいのか遺言がいいのかは相続人やその家族が置かれている状況によって異なりますので、ご自分で判断せずに地元の相続の専門家に依頼したほうが良いでしょう。

なお当事務所「鯨井会計」では、茨城県つくば市を中心として、相続対策の立案・実行支援サービスを実施しております。

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